地域コミュニティと病院

皆さんは日常生活で、病院の存在をどれだけ意識されているでしょうか。コロナ禍で医療の存在は大きくなっているとは言っても、ご自身かご家族が病気になって初めて意識するものではないでしょうか。病院の経営者はそう思っていません。地域への貢献度が大きい存在だと思っていますが…

大都市では、いや地方にあっても道路網整備で大学病院などにも時間をかけず行くことが出来るようになりました。小さな個人病院のようなところには、家の近くであってもあまり行くことはありません。「そんな病院、あったっけ」というようなことも少なくありません。

ところが地域の人々が、病気でもないのに、健診受診でもないのに集まって来る病院があります。関西のある都市で、高齢者の多い慢性期医療を主に手掛ける病院ですが、地域交流施設があって、地元の食材を使ったランチが食べられ、子ども食堂が開かれ、体操教室、子育て相談、病院ゆえに健康教室、さらには近所の農家の野菜販売まで行われています。

地域住民が新病院づくりに参加した事例もあります。病院の関連が手掛ける高齢者住宅(サービス付き高齢者住宅)には、子どもの自習室やレストラン、バーまで入居しています。

地域と深く関わり合う病院は、超高齢社会においては大事な存在です。70歳80歳となると病気は簡単に治るものではなくなります。地域での生活の中で養生しながら医療を受けることになります。地域包括ケアシステムと呼ばれる仕組みがあります。病院から介護にシームレスに繋がっていくケア、地域コミュニティが支えるケアの仕組みです。地域と関わる病院が、その中心を担っていく、そんな可能性があります。

地域にとって大事な社会資源である病院が地域コミュニティと強い関係を持つこと。地域住民にとって、こんな心強いことはありません。病院側にとっても地域で信頼される存在となることで、経営の強化を図ることが出来ます。商売で利益を追求することが主たる任務の株式会社などにあってさえ、地域コミュニティに参加することがマーケティングの上においても重要な課題となってきています。非営利事業体である病院においては、なおさらです。

医療者を地域に引っ張り出してみたいな、と思います。病院で働く人々も、実はやり甲斐のある仕事が地域にあることに気付くはずです。病院の、例えば看護部にでも声を掛けてみませんか。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾